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走って食べて読書して。東京在住アラサー女子の気ままなdiary

『クララとお日さま』by カズオ イシグロ: 一途で愛おしいAIロボットと、何だか冷たい人間達

以前から楽しみにしていた、カズオ イシグロの最新刊『クララとお日さま』を読了!カズオ イシグロは8本の長編小説を書いていますが、これは私が読んだ4冊目のカズオ イシグロ作品です。

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これまで読んだものの中ではストーリーもシンプルで、読みやすい方だったかな。でもやはりカズオ イシグロ独特の「不気味な世界観」が今回の作品にも渦巻いました。全体を通して、我々人間の身勝手さについて深く考えさせられる作品でした。

今回は病弱な少女ジェシーと、人間にそっくりなAIロボット クララが主人公です。ジェシーは店頭で彼女に一目ぼれをし、お母さんの承諾を経てクララを購入。彼女の家で暮らすようになります。

クララはジェシーのために一途に働きます。彼女の話し相手になることはもちろん、彼女の機嫌が悪い時には、面白いことを言って笑わせたり、逆に空気を読んでそっとしておいたり。ジェシーの要望を叶えるためには一人で外出もします。クララにとってはジェシーがすべて。100%ジェシーを信じ、ジェシーが何をしたら喜んでくれるか、ただそれだけを一途に考えています。

クララは太陽光をエネルギーに動くロボットであり、太陽を神様のように信仰しています。ジェシーが病気の時には太陽にどこまでも深く祈りを捧げ、太陽から頂いたあるお告げをもとに、クララを救うためのミッションを実行します。それは、自身を犠牲にするリスクのあるミッションですが、クララの責任感は強く、クララのジェシーに対する強い気持ちは周りの人間をも動かしていきます。

そんな一途なクララを横目に、人間の考えることは残酷です。クララのお母さんは、病弱のジェシーを横目に、彼女の死後のことをすでに考えています。ジェシーの死後は、ジェシーとそっくりのロボットの製造を内緒で企画しています。そして、ジェシーが亡くなったら、クララに彼女の代替になってほしいとお願いをするのです。(いくら挙動や話し方をマネできたところで、情緒や感情面で、クララが完全にジェシーの代替になることは不可なはず。。。ただ、お母さんやロボット製造の教授は人間とロボットは100%代替可能、と信じています。)

クララのミッションの成功もあり、最終的にジェシーは大学生にまで成長します。あんなに仲良しだったジェシーとクララですが、ジェシーが大人になるにつれて、話す機会は減り、最終的にクララはジェシーの部屋ではなく、物置きで生活するようになります。この物語の最後では、クララはごみ置き場にいます。それでも、クララは自分の人生は幸せだったと言い切ります。

私はこの本を読んで、ロボットの一途さと人間の冷酷さが対象的に感じられ、本の途中からどちらがロボットでどちらが人間かわからなくなるような感覚を持ちました。

また、人間の中でも「向上措置」を受けている人間はさらに冷酷だと感じました。(お金がある人間は向上措置というものを受けて、優秀な大学に進み、優良企業に勤めることができる。ジェシーは向上措置を受けた人間であるが、その副作用で、病気になってしまっている)向上措置を受けられなかったジェシーのボーイフレンド リックやジェシーのお父さんは、もう少し人間らしさを持ち合わせている気がします。

ロボットには人格があり、心があります。そんなロボットと我々人間はどう向き合っていくのか。不要になったら捨てればよいのか、、、また、お母さんが企画していた「人間とロボットとの置き換え(死んだ人間と100%そっくりのAIロボットをつくること)」は可能なのか。そんなことを考えながら読み終えた一冊でした。

向上措置を受ける、という話や、子供は学校に行かずに皆タブレット端末で勉強していることなど、今の世の中から少し先に進んだ未来の姿が描かれている点も興味深かったです。

この物語のような世界が実現してしまったら、全体的に冷たい世界になりそうです。人間も人間らしい心を失ってしまう。カズオ イシグロはロボットと共存していかざるおえない我々に警鐘を鳴らしてくれているようです。